よくある相談
よくある相談
民事全般
Q1.契約の相手が決めたことを守ってくれません…
購入した商品の引渡しを決められた時期にしないなど、契約で定められた行為を債務者に責任がある事情により行わないことを、法律上債務不履行と呼びます。
債務不履行には、その態様に応じて次の3種類あります。
①履行遅滞・・・履行が可能であるにもかかわらず、履行期が過ぎても債務を履行しないこと
②履行不能・・・契約を締結した後に、債務が履行できなくなること
③不完全履行・・・一応債務は履行されたが、その内容が不完全であること
債務不履行の場合には、契約を解除してその契約関係から離脱したり、裁判などで確定させた後に強制的に権利を実現させる強制執行ができるほか、いずれの場合にも生じた損害を賠償するよう求めることもできます。
Q2.暴力を受け、ケガをしました...
わざと(故意)または不注意(過失)により、他人の権利を侵害することを不法行為といいます。不法行為により生じた損害は、損害を発生させた者(加害者)から損害を受けた者(被害者)に対する損害賠償により填補されることとなります。
また、填補されるべき損害は物質的な損害に限られず、精神的な損害(プライバシー・名誉・信用など)も含まれます。具体的には、ケガをさせられたことの損害として、治療費、ケガで働けなかった期間に本来得られたはずの収入(逸失利益)、精神的苦痛による慰謝料などが考えられます。
不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害と加害者を知ったときから3年または行為のときから20年で、時効により消滅します。また、刑事上の責任を追及することができる場合があります。
Q3.貸したお金の支払を求めたところ、時効により消滅したと言われて支払ってもらえませんでした…
この場合の「時効」とは、一定期間の経過により債権や所有権以外の財産権を消滅させてしまう消滅時効という制度のことです。
民事上の通常の債権は10年間、商事上の通常の債権は5年間、所有権以外の財産権は20年間行使されないことと、消滅時効により利益を受ける者がこの制度の利益を受けることを主張する(時効を援用するといいます。)ことが要件です。この期間の経過中に次のような事実があると、それまでの期間の経過はゼロに戻り、再度期間の経過がないと消滅時効は完成しません。
①裁判上の請求(訴訟の提起、支払督促申立て、破産手続参加など。なお裁判外で手紙を出すなどの方法で請求しても、6ヶ月以内に裁判上の請求をしないと、期間の経過がゼロに戻ることはありません。)
②差押、仮差押、仮処分
③債務の承認(暗黙に債務を承認する行為として債務の支払も含まれる場合があります。)
Q4.高齢の父の物忘れがひどく、判断能力も衰えているようです。不必要な契約を締結してしまうのではないかと不安です…
判断能力が衰えた方の権利を守るために、その方を支援する者を選任する成年後見制度があります。
成年後見制度には、判断能力の衰えた後に裁判所により後見人等を選任してもらう法定後見制度と、判断能力が充分なうちに判断能力が衰えてきたときに備え後見人を自分で選び契約しておく任意後見制度があります。
法定後見制度においては、本人の判断能力が低い順に後見、保佐、補助となっており、本人の保護を図るために、それぞれ「後見人」、「保佐人」、「補助人」が選任されます。これらの者には、必要に応じて、本人の代
わりに契約を締結したり、本人のした不利益な契約を取り消したりする権限が与えられます。
任意後見契約は、判断能力が衰えたときに、裁判所により任意後見人を監督する「任意後見監督人」が選任されることで、効力が発生します。任意後見人となる者と本人の契約は、公正証書でしなくてはなりません。
Q5.絶対に迷惑をかけないからと言われて、友人に借金の保証人になってくれるようお願いされています…
保証人は、借りた人(主たる債務者)が支払えない場合には、代わりに支払う義務を負うことになるので、慎重に判断すべきでしょう。保証人となる者の意思の慎重さを図るために、平成16年の民法改正により、保証契約は書面でしない限り有効ではないとされました。
また、保証債務は、債権者と保証人の保証契約により負う債務です。したがって、主たる債務者との関係の変化などにより影響を受けません。夫婦であるうちに保証人となり離婚をした、親友であるときに保証人となり仲たがいをした後でも、保証債務を逃れることはできません。
また、実務上用いられる保証は、まず主たる債務者に請求をしてくれという権利(催告の抗弁権)、まず主たる債務者の財産から回収できないことになってから請求してくれという権利(検索の抗弁権)がない連帯保証の場合が多く、この場合には債権者に対し、自分が借金をしたのと同じ責任を負うことになります。
Q6.印鑑登録をしている印(実印)と印鑑カードを盗まれてしまいました…
市区町村役場(法人の場合は管轄法務局)で、印鑑登録を抹消または改印する届出をして下さい。また、警察に盗難の被害届を出すとともに、銀行や登記所(法務局)など、悪用された文書が持ち込まれるおそれのあるところへ、盗まれた旨の届出をしておくとよいでしょう。
文書に押印があると、その印鑑を持つ者が作成した文書であると法律上推定(さらには最高裁判所判例により印鑑を持つ者の意思に基づいて文書が作成されたと推定)されるため、押印は、後日契約書等の文書の成立に疑いが生じたときに、重要な役割を果たします。本人しか持っていないはずの実印によって偽造文書が作成され、印鑑証明書が添付されている場合には、偽造文書であると主張することが難しくなります。
そこで、印鑑登録の抹消か改印をして、その後の偽造文書の押印が実印と異なると主張できるようにし、各所に盗難の旨を知らせるなど、万一悪用された場合でも自分自身の過失を問われないようにしておくべきでしょう。
多重責務問題
Q1.借金の整理には、どのような方法がありますか?
個人の債務を整理する債務整理手続きには、任意整理、特定調停、破産手続、個人再生手続があります。どの手続きを選択するのがよいかは、所有する財産の状況や債務の額、家計の状況などにより異なります。
必ずしも現在請求されている金額が正確な債務の額とは限りません。利息制限法により定められた利息(元金の額により異なり、10万円未満の場合は年20%以下、10万円以上100万円未満の場合は年18%以下、100万円以上の場合は年15%以下)を超える金利で貸付を行っている場合には、法律上支払義務のある債務の額が請求額と異なることもあるからです。
どの手続きを選択すべきかは、それぞれの手続きの特性を踏まえ、弁護士等の専門家に相談するなどして、慎重に判断すべきでしょう。
Q2.任意整理とは、どのような手続きですか?
裁判所を利用しないで、裁判外で当事者が話し合い、債務を整理する手続きです。債権者に取引履歴の開示を求め、法律上支払義務のある債務の額を把握して、家計の状況から無理のない額で支払っていくことを各債権者と合意します。話し合いによる手続きですので、債権者がこれに応じなければ任意整理はできません。債務を概ね3~5年の期間で分割返済するケースが多いです。
任意整理は債権者ごと行いますので、債務の全体について無理のない返済ができるように慎重に判断する必要があります。
Q3.特定調停とは、どのような手続ですか?
債務の弁済ができなくなるおそれのある債務者の経済的再生を図るために、簡易裁判所で行われる調停の手続です。
合意ができた場合に作成される調停調書は、判決と同じ効力があります。
調停も任意整理同様、債権者ごとに行いますので、債務の全体に対する配慮が必要です。
Q4.自己破産とは、どのような手続きですか?
債務者が経済的に破綻した場合に、債務者自身が裁判所に破産を申し立て、裁判所が債務者の財産を債権者に公平に分配する手続です。
破産手続開始決定後に取得した財産は保持することができます。また、それ以外の所有する財産に関しても、生活に必要な家財道具等は保有を継続することができます。
配当すべき財産のない債務者の場合には、配当を行う破産手続を直ぐに終了する同時廃止という手続になることがあります。実際には、同時廃止事件が多数を占めます。
配当のなかった債務に関しては、裁判所が支払義務を免除する免責の手続を行います。ギャンブルや遊興費が債務の原因の場合は、免責に関して厳しく取り扱われ、免責を得ることができないこともあります。
また、税金や、故意に基づく不法行為による損害賠償金など一定の範囲の債権は、免責の対象とはなりません。
Q5.自己破産することのデメリットは、何ですか?
手続の性質上、一定の生活に不可欠な財産以外の財産を保有したまま破産することはできません。
また、一定の期間、職業や転居などに制限を受ける場合があります。ただし、職業制限を受けるのは破産手続開始決定があってから免責の決定が確定するまでの短期間ですし、そもそも制限を受ける職業は弁護士・司法書士といった資格業、保険勧誘員や警備員などに限られた職業です(就職の際に破産者でないことの証明書を提出しているかにより判断できます。)。また、株式会社の取締役や監査役の退任事由ですが、破産者であっても新たにまたは再度選任されることに制限はありません。
また、破産した後、一定の間は、住宅ローンやオートローンを組むなど借金することが制限されます。
なお、よく誤解されているように、選挙権がなくなる、戸籍・住民票に記載される、銀行の普通預金口座も使えなくなるというようなことはありません。
Q6.個人再生手続とは、どのような手続ですか?
債務額を法律の規定に従って、大幅に減額し、概ね3年(5年まで延長は可能)で分割して支払う手続です。支払を継続する手続ですので、継続反復した収入を得ることができる者でないと選択することができません。
個人再生手続は通常の再生手続よりも簡易迅速な手続です。また、住宅ローンを別扱いにして住宅を残すことができる制度も設けられています。この場合、住宅ローンの返済方法は変更することができますが、減額することはできません。
相続問題
Q1.相続とは?
相続とは、亡くなった方(被相続人)の財産を相続人が引き継ぐことをいいます。相続は、被相続人の死亡により開始します。被相続人が遺言を残していれば、原則としてそれに従い、遺言がない場合には法律の規定に従い相続します。
相続には被相続人の死亡後に遺された者の生活保障の性質もあるので、一定の場合に遺言の効力を制限する遺留分(いりゅうぶん)という制度があります。
なお、相続人は、単純承認、限定承認、相続放棄のいずれかを選ぶことができます。
Q2.単純承認とは何ですか?
被相続人の相続財産について、債務を含めてすべて引き継ぐことを、単純承認といいます。
次の場合には、単純承認したとみなされます。
① 相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき
② 相続人が、相続の開始を知ったときから3ヶ月以内に、限定承認も相続放棄もしなかったとき
③ 相続人が、相続放棄あるいは限定承認を選択した後に、相続財産の全部または一部を隠し、あるいは私的に消費し、またはわざと財産目録に記載しなかったとき
Q3.限定承認とは、何ですか?
限定承認とは、相続により引き継ぐ財産の範囲で、被相続人の債務を支払い、それを超える債務の責任は負わないという相続の方式です。したがって、被相続人の債務を支払い、さらに遺言によって特定の人に遺言を遺贈させるときは遺贈をした後に残ったプラスの財産を相続することになります。被相続人の財産の詳細が分からない場合に利用されます。
限定承認は、相続開始を知ってから3ヶ月以内に、被相続人の亡くなった時の住所地を管轄する家庭裁判所に申し出ることによって行います。相続人が複数いる場合には、限定承認は相続人全員で行わなくてはなりません。
限定承認では、相続財産の目録の作成や、被相続人の債権者や遺贈を受けた者に対し債権の届出を促す催告や公告をするなど、被相続人の財産の清算事務を行う必要があります。
Q4.相続放棄とは何ですか?
相続人が相続開始後に、相続しない意思を表示することをいいます。
相続放棄は、相続が開始したことを知ってから3ヶ月以内に、被相続人の亡くなった時の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書を提出することで行います。相続放棄をすると、最初から相続人でなかったことになり、被相続人の一切の財産を引き継ぎません。例えば、被相続人が債務超過の場合などに、その債務を引き継ぎたくないときに利用します。複数の相続人がいる場合には、それぞれの相続人ごとに期間が進行し、相続人ごとに手続きをすることになり、相続人全員で行う必要はありません。
また、3ヶ月の期間は、裁判所に申し立てることで伸ばしてもらうことができる場合があります。なお、相続財産が全くないと信じていたところ、3ヶ月経過後に債務が判明した場合には、そこから3ヶ月は相続放棄ができるとする裁判例があります。
Q5.法定相続とは何ですか?
被相続人が、遺言をしていない場合には、法律の規定に基づき相続人と、相続の割合が決まります。これを法定相続といいます。
法律上配偶者は常に相続人になります。配偶者と共に相続人になるのは、以下の者で、いないときは次の順位の者が相続人になります。
① 被相続人の子(相続開始時に死亡している場合は孫、孫が死亡している場合はひ孫)
相続分の割合は、配偶者 1/2 子 1/2
② 被相続人の直系尊属(父母、相続開始時に死亡している場合は、祖父母)
相続分の割合は、配偶者 2/3 直系尊属 1/3
③ 被相続人の兄弟姉妹(相続開始時に死亡している場合は、その子)
相続分の割合は、配偶者 3/4 兄弟姉妹 1/4
配偶者以外の相続人が複数いる場合には、その相続分は人数割になります。ただし、上記の①の場合で嫡出子(法律上婚姻関係にある男女間の子)に対して嫡出でない子は1/2の割合に、上記③の場合で父母が両方同じ兄弟姉妹に対して一方だけが同じ兄弟姉妹は1/2の割合により相続します。
Q6.寄与分、特別受益とは何ですか?
形式的に法定相続によって相続分を決定してしまうと、実質的には、不公平な結果となる場合があります。これを是正するのが寄与分、特別受益の制度です。
「寄与分」とは、被相続人の財産の維持、増加に特別の貢献をした相続人の持つ取り分のことです。寄与分が認められる場合には、遺産分割をするに際し、まず、相続財産から寄与分を控除して、残りを法定相続分により計算します。そして、寄与分を持つ相続人はこれに寄与分を加算したものが具体的な相続分となります。
「特別受益」とは、特定の相続人が被相続人より遺言や生前贈与を受けていた場合に、相続開始時の財産にこれらの財産を加えて(持戻し)、これを相続分計算の基礎とします。これを法定相続分で分割し、特別受益のある相続人の相続分については、計算された金額から特別受益の金額を差し引いたものが具体的な相続分となります。
Q7.遺留分とは何ですか?
遺留分(いりゅうぶん)とは、遺言がある場合に、兄弟姉妹以外の相続人に対して一定の限度で認められる相続財産の割合をいいます。
その割合は、直系尊属(Q5参照)だけが相続人となるときは遺産の1/3、それ以外(配偶者だけ、子だけ、配偶者と子が相続人となるとき)は遺産の1/2です。遺留分を有する相続人が複数いる場合は、その遺留分の割合を法定相続分の割合で分け合います。
遺留分を考慮しない遺言が遺された場合、相続人は遺留分減殺請求権(いりゅうぶんげんさいせいきゅうけん)を行使して、被相続人のした生前贈与、遺贈などの効力を否定したり、すでに移転した財産の返還を請求することで、自分に認められた遺留分を保全することができます。
遺留分減殺請求権は、自分の遺留分が侵害されていることを知ったときから1年以内、または、相続開始後10年以内に行使しなくてはなりません。
Q8.遺言を作成したいのですが、どのようにすればよいですか?
特殊な状況下においてのみ作成が認められる特別方式の遺言を除き、一般に用いられる普通方式の遺言には、自筆(じひつ)証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言があります。
遺言の各方式は、遺言者の真実の意思を尊重するために設けられており、効力が発生するためには、遺言をした者が死亡しており真意を確かめる手段がないことから、厳格に方式が規定されています。この方式に違反した遺言は無効となります。
自筆証書遺言とは、遺言をする人(遺言者)が自分の手で書いて行う遺言です。遺言の全文を手書きし日付と氏名を書いて押印します。日付及び氏名などの記載を欠いていたり、他人に代筆してもらったり、パソコンで作成した場合などには無効となりますので、注意が必要です。自筆証明遺言は、手続きが簡便であり低費用で済みますが、保管に十分注意しなければなりません。なお、この自筆証書遺言は、発見後、検認手続が必要となります。検認手続とは、遺言書の偽造及び変造を防ぎ、遺言書を確実に保全するための証拠保全手続です。検認は、遺言者の亡くなった時の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、遺言書の保管者または発見者が請求することになります。
秘密証書遺言は、遺言の内容を記載した文書に遺言者が署名押印して封筒に入れ、遺言書に用いた印で封印し、これを公証人に提出して作成します。実際には、ほとんどが用いられていません。
公正証書遺言は、遺言者が、二人以上の証人の立会いの下で遺言の趣旨を公証人述べ、公証人に述べ、公証人がこれを筆記し、その内容を読み聞かせ、筆記の正確性を承認した全員が署名押印して作成します。
なお、この公正証書遺言は、公証人に対する費用が必要となりますが、検認手続は不要であり、また公証人により原本が保管されるため、最も安心かつ確実な遺言といえます。
Q9.生命保険の保険金請求権は相続財産に含まれるのでしょうか?
相続財産は、原則として相続が開始した時に被相続人に帰属していた権利・義務です。したがって、生命保険の保険金受取人が誰になっているかにより、保険金請求権が相続財産に含まれるか否かの結論が異なります。
まず、保険金受取人として特定の人を指定してあった場合は、保険金請求権は、被保険者より承継するのではなく、その保険金受取人が固有の権利として取得するので、相続財産ではありません。
次に、保険金受取人として「相続人」と指定されていた場合ですが、この場合もその指定を受けた者の固有の権利であり、相続財産に含まれません。法定相続人が複数名いる場合は、特段の事情のない限り、法定相続分に従い取得するとされています。
これらに対して、保険金受取人として被保険者自身を指定していた場合には、相続財産に含まれることになります。
建物賃貸借問題
Q1.敷金は何のために差し入れるのですか?
敷金とは、延滞した賃料や賃貸人の不注意で壊した箇所の修理代金など、賃貸借契約に関して発生する債務を担保するために、賃借人から賃貸人に、あらかじめ差し入れておく金銭のことです。
賃貸借契約終了時には、賃借人の債務は当然に敷金から差し引かれ、残額が返還されます。なお、契約存続中は、敷金により担保される債務が発生したとしても、賃借人の側から、敷金から差し引いてくれるよう請求することはできません。
賃借人が通常の使用方法に基づいて使用している間に生じる、自然的損耗(汚れ、傷みなどの価値減少)や年月の経過による劣化に対する修繕費用は、賃貸人の負担すべきものですので、敷金から差し引かれることはありません。
また、地域によっては、保証金など他の名称で呼ばれていることがありますが、その性質が敷金であれば、敷金として取扱われ、賃貸借契約終了の際には、残額の返還を求めることができます。
Q2.家主(賃貸人)の修繕義務とは、どのような義務ですか?
家主(賃貸人)には、貸しているものを使用できるようにする義務があるので、賃借人は通常使用に伴う修理を賃貸人に請求することができます。また、賃借人が自分でその費用を支出した場合には、直ちに賃貸人に請求することができます。
特約により、通常使用による軽微な修繕に関しては賃借人の負担とすることができますが、構造に関わるようなものなど大きな修繕については賃借人の負担とすることはできず、そのように規定した特約は、消費者契約法や民法などに基づき無効になると解されます。
なお、賃借人が故意又は不注意で修繕を要する状態にしてしまった場合には、賃貸人に修繕を求めることはできません。
Q3.賃借人の原状回復義務とは、どのような義務ですか?
賃借人は、借りていた建物を入居したときと同じ状態にして賃貸人に返還する義務があります。これが、原状回復義務です。入居したときと同じ状態というのは、通常の使用による損耗や、経年による劣化を修理することまでは含まず、これらのものは原則として修理する必要はありません。毎月支払う賃料により、この修繕費用は充分補うことが出来ると考えられるからです。
具体的にいうと、賃借人が備え置いた家具などを明渡しに際して撤去する、不注意により壊した部分を修理する(修理費用を負担する。)義務などです。
通常使用による損耗部分を賃借人の負担とするには、明確な合意が必要とされますが、合意が賃借人にあまりに厳しく不当な場合には、消費者契約法や民法の規定により、効力が否定される場合もあるでしょう。
Q4.借家契約の保証人は、どのような責任を負うのでしょうか?
保証人は、賃料の支払債務や賃借人の不適切な利用に基づき生じた損害賠償債務など、賃貸借契約に関して賃借人が賃貸人に対して負う債務を保証する責任を負います。
また、賃貸借契約が更新された場合には、原則として保証債務も継続することとされています。これは、建物の賃貸借契約の保証人となることで、保証人が予想し得ないような過大な債務を負うことは通常考えられないこと、借地借家法により、借家契約は更新が原則となり、長期間継続することが前提であることから、このように考えられています。このことは逆に言えば、保証人が当初予想し得ない過大な債務を負うような場合は、保証すべき債務に一定の制限が加えられたり、保証契約の解約が認められるということで、その趣旨に沿った判断をした裁判例もあります。具体的には、賃借人が賃料の不払いを継続しているのに、保証人に通知することなく賃貸借契約を更新し続けた事案で、一定の更新以降の債務に関しては責任を負わないと判断した裁判例があります。
もちろん、賃貸借契約更新時には賃貸人との合意で保証契約を解約することは可能ですが、現実的には賃貸人の承諾が得られず困難です。契約をする際に、賃貸借契約更新時の保証契約の取扱いなどについてきちんと決めておくことが重要です。
Q5.賃借人から、賃貸借契約を解約することができますか?
期間について定めのない賃貸借契約の場合には、賃借人はいつでも解約の申入れをすることができますが、賃貸借契約の終了は3ヵ月後になります。
次に、期間を定めている場合ですが、通常は契約書に中途解約の規定を設けてありますので、必ず確認するようにしてください。
解約に伴い、違約金の支払を求める規定があった場合にも、その金額によっては消費者契約法や、権利の濫用・暴利を禁止する民法の規定により無効とされる場合もあります。
Q6.賃貸人側から賃貸借契約を終了させるには、どのようにすればよいのでしょうか?
期間の定めのある賃貸借契約の場合でも、期間の満了により当然に終了するわけではなく、期間満了の1年から6ヶ月前までの間に更新をしない旨の通知をしなくてはなりません。また、この更新拒絶には、正当事由が必要とされます。正当事由があるか否かは、建物の使用を必要とするそれぞれの事情、これまでの経過、使用状況、建物の状況、立退き料の提供の有無などを総合的に考慮して判断されます。したがって、賃貸人の一方的都合で賃貸借契約を終了させることはできません。
なお、厳格な要件を満たした上で、契約の更新がないものとする定期建物賃貸借の制度もあります。
Q7.賃貸借契約の存続期間中に賃料の額を変更することは可能ですか?
賃貸人と賃借人が合意をすれば、いつでも可能です。
また、契約関係はお互いの合意を基礎とするため、原則として一方的に契約内容である賃料の額を変更することはできませんが、借地借家法に一定の場合には増額又は減額できる規定が設けられています。一定の場合とは、不動産に対する税金の増減、不動産の価格の増減などの経済事情の変動、近傍の相場との比較から賃料が不相当となった場合であり、当事者の合意ができない場合には、裁判所に賃料の確定を求め調停を申し立てることになっています。(調停前置主義)。
Q8.住んでいた住居の賃貸人が代わりましたが、賃貸借契約の効力や差し入れた敷金はどうなるのでしょうか?
賃貸人の変更の原因が賃貸物件を他に売却したことによる場合ですが、売却の前に、賃借権の登記をしている又は賃借物件(アパートの一室のように建物の一部であっても他と区分されるものを含みます。)の引き渡しを受けていれば、新賃貸人に対してもこれまでと同じ賃貸借契約を主張することができます。また、敷金は旧賃貸人に対する賃料不払い等があればその分の金額を差し引いた上当然に新賃貸人に引き継がれます。
次に、賃貸人の変更の原因が抵当権に基づいて競売されたことによる場合ですが、次のとおりです。
①抵当権の登記前に賃借権の登記又は賃借建物の引き渡しを受けている賃貸借契約の場合
賃貸借契約は影響を受けません。敷金は、上記と同様に当然に新賃貸人に引き継がれます。
②抵当権の登記後で平成16年3月31日以前に締結されていた短期賃貸借契約(3年を超えない期間の賃貸借)の場合
契約に定める期間までは、そのまま住み続けることができます。敷金は、上記と同様に当然に新賃貸人に引き継がれます。
③上記①及び②以外の賃貸借契約の場合
新賃貸人に賃貸借契約の存在を主張できません。ただし、競売の代金納付から6ヶ月間だけは、そのまま住み続けることができます(明渡猶予制度)。敷金については、新賃貸人に引き継がれず、返還請求は旧賃貸人に行います。
離婚問題
Q1.離婚の手続には、どのようなものがありますか?
離婚とは、婚姻の解消の原因の一つです。離婚する方法としては、夫婦間の話し合いによる協議離婚があります。話し合いが調わない場合に、いきなり離婚を求める訴訟を提起することはできず、まず調停を申し立てなくてはなりません(調停前置主義)。調停が成立すれば離婚となり、これを調停離婚といいます。調停が不成立の場合には、家庭裁判所の裁判で離婚を求めることができます。このように判決でする離婚を裁判離婚といいます。
Q2.協議離婚とは、どのようなものですか?
協議離婚とは、夫婦の合意によって婚姻を解消することです。協議離婚は、夫婦双方に離婚の意思があることを前提として、離婚届を市区町村役場に届け出て、これが受理されることによって成立します。離婚届は本籍地または住所地の市区町村役場へ提出しますが、本籍地以外の市区町村役場へ提出する場合には、戸籍謄本の添付を求められることが多いです。
未成年の子どもがいる場合には、父母のいずれが親権者となるか決めて離婚届に記載しなければなりません。話し合いで親権者を決めることができない場合には、家庭裁判所に離婚及び親権者指定の調停を申し立てることになります。
Q3.調停離婚とは、どのようなものですか?
家庭裁判所の調停によって成立する離婚のことです。家庭裁判所に、夫婦関係調停(いわゆる離婚調停)を申し立て、調停の中で、離婚の合意ができ、調停調書に記載されたときに、離婚が成立します。市区町村役場への届出は、調停成立の日から、10日以内に行うこととされています。
Q4.裁判離婚とは、どのようなものですか?
裁判所の判決によって離婚することをいいます。裁判離婚は、民法で定める以下の離婚原因がなければ認められません。
①配偶者に不貞行為があった場合
②配偶者から悪意で遺棄されたとき(同居や生活費負担の拒否など)
③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
⑤上記①~④以外に婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
離婚原因があったとしても、裁判所が一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときには、離婚が認められないこともあります。
Q5.財産分与とは何ですか?
財産分与とは、離婚の際に、結婚生活の間に夫婦が協力して築いた財産を、公平の観点から分け合うことです。夫婦が協力して築いた財産の名義が一方のものでも、他方はその分与を請求することができます。相続により取得した財産のように、夫婦の協力により形成された財産以外のものは財産分与の対象となりません。
財産分与は、夫婦間の話し合いで決めることができますが、離婚の調停や裁判とともに請求することもできます。
離婚後でも2年間請求することができます。
Q6.離婚の際の慰謝料は、どのような場合に請求できるのですか?
相手方に「責任がある」行為が原因で離婚にいたった場合、慰謝料を請求することができます。
暴力や虐待、不貞行為など不法行為によって精神的苦痛を受けた場合に請求することができますが、このような行為があったとしても、程度が軽い場合には、慰謝料を支払わせるほどではないと判断される場合もあります。したがって、性格の不一致で離婚する場合には、原則として慰謝料は請求できません。
なお、離婚に伴う慰謝料は、原則として、離婚後3年で請求できなくなります。
Q7.離婚後の子どもの養育費は、どのように算出され、何歳になるまで請求することができるのですか?
養育費は、父母が親の義務として、収入などに応じて負担するということで算出します。
父母の話し合いによりまとまらない場合には、家庭裁判所における調停または審判により決定されることになります。
何歳まで請求することができるかですが、民法上、規定はありません。一般的には、養育費の支払の対象は「未成熟子」とされており、「未成熟子」とは、身体的・精神的・経済的に成熟化の過程にあるため就労が期待できず、まだ孤立して生活する能力を持っていない者をいいます。実務的には成人までが多いようですが、個々の家庭の状況によっても異なり、個別に検討することになります。
Q8.養育費の支払が滞っています。法的にどのような手段がありますか?
家庭裁判所で成立した調停調査、確定した審判書、裁判離婚の確定した判決書において養育費の支払が記載されている場合に、家庭裁判所において支払状況を調査の上、支払の勧告をする履行勧告の制度があります。履行勧告は、申立てが簡単で手数料は不要ですが、強制力がありません。
履行勧告によっても支払われない場合には、家庭裁判所に相当の期間を定めて履行を命じる履行命令を発してもらうことができます。履行命令に従わない場合には、10万円以下の過料の制裁があります。
また、調停調査、審判書、判決書、強制執行認諾条項付きの公正証書により、強制執行を行い、強制的に相手方の財産(給料や不動産など)から支払を確保することも考えられます。将来部分の養育費に関しても継続して給料の差押えをすることができます。
Q9.離婚の際に子どもがいる場合には、どのような点に注意すべきですか?
子どもの福祉を第一に考え、親権者や監護者を決めなければなりません。子どもの養育費、面接交渉の方法を検討することなども必要となります。
子どもの財産管理を行う親権者と監護・教育を行う監護者を分ける場合には、個々の具体的な事情を考慮することが必要です。子どもの養育費については、子どもと生活を共にしていない親が、子どもと生活を共にしている親に対して、毎月一定額を支払う方法が一般的です。経済的な面だけでなく、子どもと生活を共にしていない親がどのように子どもと面会(面接交渉)をするのか決めておく場合もあります。
Q10.離婚した場合、子どもの戸籍や氏はどのようになるのですか?
結婚の際に氏を変えた親は、離婚により原則として旧姓に戻るのに対し、子どもは何の手続もしないと結婚時の両親の戸籍に留まり、氏も変わりません。そのため、結婚の際に氏を変えた母親が離婚後子どもの親権者になる場合などに、共に生活するにもかかわらず氏が違うという不都合が生じることもあります。
このような不都合を避けるため、離婚に伴い、子どもの戸籍や氏を変えたい場合には、家庭裁判所に子の氏の変更許可申立てをして許可を得る必要があります。こうすることにより、子どもも同じ氏を名乗る親の戸籍に入ることになります。
結婚の際に氏を変えた親が、婚姻中の氏を継続して使用する場合(婚氏続称)も、そのままでは子どもは結婚時の戸籍に入ったままです。その親の戸籍に入れるためには、家庭裁判所で「子の氏の変更許可」を得ることが必要です。
Q11.別居中の配偶者に、生活費の支払を請求できるでしょうか?
夫婦は、婚姻から生じる費用(婚姻費用)を分担する義務を負い、たとえ別居したとしても、これに変わりはありません。ここで、「婚姻費用」とは、衣食住の費用、子の養育費など通常の生活に必要な費用をいいます。夫婦間の扶助義務は、自分と同じ程度の生活を維持させる義務(生活保持義務)とされています。したがって、お互いに経済的に独立した生活を送っているような場合は別としても、一方が困窮しているような場合には、相手方に対して、相手方と同じ程度の生活を維持するに足りる額の生活費の支払を請求することができるでしょう。
また、将来の婚姻費用だけでなく、過去の婚姻費用も請求することができます。分担の割合は、当事者の収入の額、資産などの様々な事情が考慮されます。具体的な分担額が話し合いにより決定できない場合には、相手方住所地または合意で定めた家庭裁判所に調停を申し立てるか、相手方住所地の家庭裁判所に審判を申し立てることになります。
なお、離婚により婚姻費用の分担義務はなくなりますが、未払分がある場合には、離婚に際しての財産分与額の決定の際に考慮される事情の一つとなります。